-イザヤ 43:1b-2a-
恐れるな、わたしはあなたと共にいる
-中村神父-
現代社会に生きるわたしたちにとって、最も恐れを抱かせるものはなんでしょうか。日本においては地震や大規模な水害などの自然災害と呼ばれる出来事が最初に挙げられるかも知れません。あるいは終わる気配のない新型コロナウィルスの蔓延でしょうか。その他にも、経済の低迷や円安、食料や燃料の高騰、世界を巻き込む戦争の気配など、いくつも数え上げることができます。わたしたちは常に安寧な生活を送りたいと願っていますが、わたしたちを取り巻く環境や世界情勢は、常に不安を呼び起こすものとして目の前に置かれています。
預言者イザヤが活躍した時代のイスラエルは、現代とは問題点が異なるとはいえ、度重なる危機に直面しなければならない状況にありました。当時のイスラエルは主に10部族からなる北イスラエル王国と、2部族による南ユダ王国とに分かれていましたが、紀元前722年に北イスラエル王国がアッシリア帝国によって滅ぼされ、ほぼ全住民が捕囚として連れ去られる出来事に見舞われました。彼らが滅亡に至る最たる要因は、「異教の神を拝んではならない」という信仰の根幹を揺るがす背教の罪であったのです。神から遣わされた預言者エリア、エリシャ、ホセアらによる、神への回心を促す度重なる警告も空しく、彼らは預言者たちに耳を傾けようとしなかったのです。住民が連れ去られた後には、他の民族が強制的に移住させられました。
預言者イザヤは、これと同様の出来事が起こることを、南ユダ王国の人々に告げ知らせました。ダビデ王から続く血族が統治する南ユダ王国もまた、同じ轍を踏み異教の神を礼拝し、供物を捧げていたからです。イザヤの警告も及ばず、強大な武力をもってアッシリア帝国を滅ぼし、領地拡大に燃えていたバビロニア帝国によって、南ユダ王国もまた紀元前586年に滅亡へと追い込まれてしまいます。それはイザヤが活動を終えてから、約1世紀を経た時のことでした。こうして、全住民とはいかずとも、国を治める主だった人々一万余名が遠く離れたバビロンへと捕囚として引かれていったのです。
神から選ばれた民が、主である神を裏切り続けた結末は悲惨なものですが、イザヤは大きな希望をも預言していました。「恐れるな、わたしはあなたを贖う。あなたはわたしのもの。わたしはあなたの名を呼ぶ。水の中を通るときも、わたしはあなたと共にいる」(イザヤ43章1b~2a)。イザヤは、神が必ずイスラエルの民を救い、約束の地へと連れ戻すことを書き残していたのです。この預言は紀元前538年に、キュロスという王様に率いられたペルシャ帝国によって、バビロニア帝国が滅ぼされることで実現します。翌年発布された民族解放令により、イスラエルの地への帰国が始まり、彼らは神殿の再建と復興の道を歩み始めたのでした。
「恐れるな、わたしはあなたと共にいる」。この神の言葉は、現代のわたしたちに呼び掛けられたメッセージでもあります。イエス様の教えを真摯に受け止め、いかなる状況に襲われたとしても、信仰をもって神が与えてくださる恵みと救いを待ち望んでいきましょう。
