-ルカ 10:42-

必要な事はただ一つだけである

-中村神父-

 現代は情報化社会と言われています。既存のメディアである新聞やラジオ、テレビなどはもちろんのこと、インターネットの普及により、世界中のあらゆる情報をパソコンやスマートフォンで簡単に手に入れることができます。最近ではChatGPTと呼ばれる、AI機能を用いた高度な検索機能を備えたソフトウェアも登場し、既に企業や大学で活用されているようです。これらの便利な情報機器を用いれば、図書館や書店に足を運ばずとも、必要と思しき十分な情報や知識を、自宅に居ながらにして得ることができるのです。

 これには、メリットとデメリットがあります。目的の情報を素早く得られるのは最大の利点ですが、情報があまりに多すぎるために、答えを一つに絞るのに難儀することもしばしばです。同じ出来事を調べていても、資料ごとにまったく異なる情報が書かれていることも少なくありません。中には悪意に満ちた偽情報と思しきものも存在するため、それを見極めるために更なる情報を探すことになります。

 ネットショップの写真で気に入った商品を購入しては見たけれど、届いたものを手にしてがっかりした経験を持つ人も多いのではないでしょうか。そのため、やはり店舗で手に取ってみてから購入しようと出かけてみると、同じような商品が幾つも並んでいるため、選ぶのにひと苦労することになります。

 以前、友人のギター購入の際に同行した時のことです。安価な物から高価な物まで様々なギターが並べられている中で、初心者に最も適したギターを探すのは骨が折れそうだと考えていると、友人は10分もしないうちにお目当てのギターを見つけて、その場で購入を決めました。自分なら1時間たっても決められなかったかも知れません。確かに、選んだギターは友人が演奏するのに最も適した物でした。限られた時間の中で最善の選択ができたのは、必要を満たすものが見つかったら直ちに決断するという実行力を、友人が備えていたからだと思います。この実行力は信仰生活に大いに役立つものです。

 ルカ福音書の10章には、イエス様がマルタとマリアの姉妹が住む家を訪れた時の出来事が描かれています。姉のマルタは訪問者のもてなしに追われているのに、妹のマリアはイエス様の話に聞き入っていて、まったく手伝おうとしません。マリアの態度が腹に据えかねたマルタは、イエス様のもとに行って、もてなしを手伝うようにマリアに言ってくださいと嘆願しました。しかしイエス様の言葉は、マルタが驚くような答えだったのです。

 「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。しかし、必要な事はただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」

 恐らくマルタは、よく気がつく、思いやり深い、配慮に満ちた女性だったのでしょう。それが徒となって、いま何を優先すべきなのかを正しく見極めることができなくなっていました。イエス様がマルタに望んでいたのは、マリアと共にイエス様の話に耳を傾けることだったのです。

 「必要な事はただ一つである。」多くの情報に振り回され、適切な答えを見つけるのに困難を覚えるとき、このイエス様の言葉を思い出すことができますように。


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